アジアの空港、特に東南アジアの空港に降り立つと、あのムッとした蒸し暑い風が肌を過る。日本の梅雨時とは全く頃なる心地よい湿度に触れると、なんだか故郷に帰ってきたようにほっとする。そんな風を求めて毎年何度か東南アジアを訪ねる。
初めて訪れた東南アジアはタイだったと記憶している。食べ物も風土も体に合っているようで、その後いろいろな国を訪れるようになった。そんな時にバリ島の魅力に触れ、以来毎年のように訪れるようになった。要するに嵌ってしまったのだ。
バリ島はご存じのように東南アジアの代表的なリゾートである。素晴らしいホテルやヴィラの施設とレベルの高いホスピタリティがある。お気に入りのヴィラを再訪するとフロントでは「おかえりなさい!」とオーナーが挨拶に出てくるし、レストランのスタッフは「また来てくれたの?」と両手をかざして迎えてくれる。馴染みになったプールの管理人は、「もうすぐ辞めて田舎に帰るので、来年は会えないね。」と悲しげな顔をする。それらも魅力の一つであることは間違いないが、バリに魅かれていったのはその伝統的でクリエイティブな文化であった。
神々の島と呼ばれる Bali の語源は儀式の意味の Wali がなまったとか、神にささげる供物の意味だとか、古代インドの王の名前に由来するとか諸説あるようだが、どれもバリ・ヒンドゥに繋がるところがある。バリはバリ・ヒンドゥを中心に動いていると言っても過言ではない。朝起きれば、ホテルでも町でも空港でも到る所でチャナンと呼ばれるお供え物が置かれていく。良い神と悪い神は常に拮抗し到る所に存在するからチャナンも到る所に置かれるのだ。悪霊を治めるために地べたにも道路にも。
バリ島の魅力はアートの分野でも際立っている。美術館も多く所蔵品も興味深いものが多い。バリ独特の絵画があちこちのアトリエで書かれている。カサマン村を中心に継承されている伝統的なカサマン・スタイル、ブンゴセカン村で始まったと言われる花鳥風月など日本画に通じるようなブンゴセカン・スタイツ、ドイツ人画家ヴァルター・シュピースなどの影響を受けて発展したウブド・スタイル(あるいはバトゥアン・スタイル)と呼ばれるものは自然や生活風俗が描かれる。最近はモダンな画法やモチーフのものも多くなっているが絵画一つをとってもアートの奥は深い。
カラフルなサロンをはじめ、バッティック(ジャワ更紗)、イカットなどのテキスタイルにも素晴らしいデザインセンスがある。チュルクの銀細工、マスの木工芸、バトゥブランの石造などどれをみてもバリの人々のアートなスピリットが溢れている。木塊にラフなスケッチをしただけで素晴らしい木彫が彫り上げられていく。頭の中に 3D で完成像を構成できるのであろう。
バリ舞踏も、ガムランも、ワヤンクリ(影絵芝居)も、バリ島の文化、風俗にはアートが溢れている。棚田を吹き抜けていくアジアの風はいつも心地よい。
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